EIKOTIMELESS 石岡瑛子とその時代

文・取材:河尻亨一

# 20 創造は時代の想像を超えられるか?—連載再開に際して—

appeales.003 Design:Eiko Ishioka(1990)

7月中旬頃の記事更新を予定しておりましたが、取材その他の作業が立てこみ、8月以降は五輪エンブレムに関する記事執筆など、思うようにこちらの連載の筆が進まず、新しい記事の公開が遅れていることをお詫び申し上げます。

まだ収束したわけではありませんが、この夏の五輪エンブレムの騒動は、本連載のテーマでもある「人(クリエイター)と表現(デザイン)、そして時代(社会)」の関係を根底から問われる巨大な宿題となりました。私としてもこれまで考えてきたこと、執筆してきたことなどをシビアな目で点検しなおさざるをえない機会となりました。

様々な視点から繰り返した考察も一巡し、やはり「創造は時代の想像を半歩超えたところで伝わるものになるのではないか?」という結論に至っています。

そして改めてこのようにも感じました。石岡瑛子氏が創作を通じ、生涯をかけて追い求めた「Timeless」「Original」「Revolutionary」は、いまこそ重い意味を持つ言葉だったではないか?と。

そういった「本質」あるいは「原点」に本気で立ち返らなければ、プロフェッショナルとしてのデザインやクリエイティブは、社会的意義を喪失することになるのでは?――「上級国民」などという空疎なレッテル貼りも横行する中、私はそのような危機感さえ抱いています。

何年も前から感じていたことでもありますが、この領域の表現者による“言葉”が、いよいよ時代に響かなくなっている気がするのです。エンブレムの騒動は、クリエイティブ以外の様々なファクターが絡み合った複合的出来事であるとはいえ、目を背けられないその現実があからさまになりました。

しかし、表現を通じたコミュニケーションは、いつの時代も世の中に必要とされており、“本当の声”には共感を生み出す力があります。デザインは極めて人間的な営みです。そして逆説的な言い方になりますが、いまほどそれが求められている時代はないと言うこともできそうです。作るものに関して“上級”を目指すことは、むしろ必須です。

では、それはどこから生まれてくるのか?

石岡氏は常日頃「表現者は自分を鍛え抜かなければならない」と強調していました。組織や社会のしがらみ、一時の流行り廃りからも自由になって、その位置から表現を続けるためには、強い私が必要だと考えていたのでしょう。

そういった意味で石岡瑛子氏は、異端のデザイナーと言えるかもしれません。広告代理店や業界の派閥とは距離を置き、キャリアの最初の10年を除いて特定の組織にも所属せず(みずから作り出すこともなく)、性別や国籍をアイデンティティの拠り所にすることも拒んで、すさまじいまでの情熱で「私」に精魂を傾けた人と感じます。そうやって世界的な大仕事をいくつも手がけたのは、驚異的なこととさえ思えます。

彼女が「私」に固執した理由は、もうひとつあると思います。

コミュニケーションの原則は、「わたし」と「あなた」のあいだにあるものです。「組織」と「その他大勢」ではありません。複雑な社会の仕組みの中で、我々はそのことを忘れがちですが、優れたクリエイションには、たとえば「企業」と「ユーザーたち」といった血の通わない関わりを、「わたし」と「あなた」のヒューマンな関わりに変換する力があります。


「ゆえに“私”を突き詰める必要がある」――石岡瑛子氏はそう考えていた、のかもしれません。連載の本文でも引用しましたが、彼女は著作『私デザイン』(2005年)の前書きで、次のように述べています。

「デジタル化はエンターテイメントの世界に影響を与え、文化、ライフスタイル、そしてもちろんアートやデザインの領域をも根底から変えていって、その速度は止まることを知らない。(中略)このような時代をサヴァイヴしていくために最も大切なことは、内側から湧き上がってくるほんとうの“自分力”を培うことかもしれない。

宙を舞う塵の数ほどもある情報も、使いようによっては確かにこの混沌とした世界をサーフィンしていくための武器になるかもしれないが、情報収集のパッチワークのような考え方や表現を世に向かって提示してみても、結局は人の心をつかむことはできない」

創造が時代の想像を超えるためのヒントはここにありそうな気がします。

執筆のほうは遅れていますが、国内の関係者の皆様へのインタビューに関しては、この夏におおよそ終わらせることができました。お話を快くお引き受けくださった方々に、この場をお借りしてお礼申し上げます。

いま再び、じっくり腰をすえて「石岡瑛子とその時代」の物語を描いてみたいと思います。慎重に大胆に。不定期の連載ではありますが、ご容赦いただけますと幸いです。完成にはまだ時間がかかりそうですが、引き続きおつきあいくださいますようお願い申し上げます。

2015年9月18日 著者


(お知らせ)

武蔵野美術大学にて「1960-80年代、日本のグラフィックデザイン」と題された展示が行われています(11月7日まで)。当連載でもご紹介している資生堂・パルコの名作から映画「ドラキュラ」まで、石岡瑛子氏のポスターも約40点展示されています。

「世界デザイン会議(1960)」「東京オリンピック1964」のポスター現物も見られます。
(武蔵野美術大学展示 *コチラをクリック)

五輪エンブレム騒動に関する筆者の考えは、現代ビジネスに寄稿しました。以下でお読みいただけます。
(8月6日 *コチラをクリック)
(9月5日 *コチラをクリック)

※こちらは宣伝です。「Cannes Lions2015」のレポートを日本経済新聞に寄稿しました。記事内の解説映像にも出演しております。
(日経「Cannes Lions2015」のレポート *コチラをクリック)